人間失格/太宰治
あらすじ
「恥の多い生涯を送ってきました」3枚の奇怪な写真と共に渡された睡眠薬中毒者の手記には、その陰惨な半生が克明に描かれていました。無邪気さを装って周囲をあざむいた少年時代。次々と女性に関わり、自殺未遂をくり返しながら薬物におぼれていくその姿。「人間失格」はまさに太宰治の自伝であり遺書であった。作品完成の1か月後、彼は自らの命を断つ。
中学のとき読もうと思いつつ、結局読まずに高校を卒業し、20歳も過ぎてしまいました。なんとなく学生のうちに読んでおくのがいいかな、と思い5年以上の時を超えて、満を持して、あの誰もが知る名作を手に取りました!
なるほど。割と面白かったです。ただ、あんまり鬱とかなんとかにはなりませんでした。ちょっと期待していたんですけどね。
これを10代の中学高校時代に読んでいたら、どうなっていたのかなあと思ったり。
サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を高校のときに読んで、なんだかすごく共感とか衝撃を受けた男ですからね。『人間失格』も主人公の「世間が怖い」だとか、「人間が怖い」だとかいう部分にすごく共感していたかもしれません。感受性の高いころに読んでいたら衝撃が強かったかもしれません。まあ、だから中学の時、最初の数ページ読んで、暗い気分なりそうで本を閉じたんですけどね。結局主人公は救われないし。
でも、太宰の文章はいいですね。文章のリズムがよくて好きです。
恥の多い生涯を送って来ました。
という一文から始まる男の手記。
この14文字で一気に引き込まれます。そこから始まる男の生涯の独白。
誰しもが感じるどこか後ろ暗い感情をとことん突き詰めていくような、淡々とした男の独白。
世間とは、いったい、何の事でしょう。人間の複数でしょうか。どこに、その世間というものの実体があるのでしょう。けれども、何しろ、強く、きびしく、こわいもの、とばかり思ってこれまで生きて来たのですが、しかし、堀木にそう言われて、ふと、
「世間というのは、君じゃないか」
という言葉が、舌の先まで出かかって、堀木を怒らせるのがイヤで、ひっこめました。
神に問う。信頼は罪なりや。
それにしても、主人公、大庭葉蔵のダメ男っぷりがすごい。太宰に人間のダメな部分を描かせたら本当にうまいですね。どうしようもなさが素晴らしい。それでいて、どこか憎めない。
「なぜ、いけないんだ。どうして悪いんだ。あるだけの酒をのんで、人の子よ、憎悪を消せ消せ消せ、ってね、むかしペルシャのね、まあよそう、悲しみ疲れたるハートに希望を持ち来すは、ただ微醺をもたらす玉杯なれ、ってね。わかるかい」
「わからない」
「この野郎。キスしてやるぞ」
「してよ」
ちっとも悪びれず下唇を突き出すのです。
「馬鹿野郎。貞操観念、……」
しかし、ヨシちゃんの表情には、あきらかに誰にも汚されていない処女のにおいがしていました。
「私たちの知っている葉ちゃんは、とても素直で、よく気がきいて、あれでお酒さえ飲まなければ、いいえ、飲んでも、……神様みたいないい子でした」
生きていくことの難しさ、人間の難しさ、「人間」とは何なのか、「自分」とは何なのか、そういうものを考えてみるのもたまにはいいのかもしれません。
- 作者: 太宰治
- 出版社/メーカー: 新潮社
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