李陵・山月記―弟子・名人伝/中島敦

『李陵・山月記―弟子・名人伝』著中島敦、読みました。

あらすじ

人間の強さと弱さを映し出す悲運の英雄たち
舞台は中国、漢の時代。北方民族・匈奴(きょうど)の来襲に、軍隊を率い李陵は勇戦するも捕虜となる。
その評価をめぐり宮廷は大騒動。
唯一の味方・司馬遷(しばせん)も刑罰を受けることに…。
人間の存在とは何かを鮮烈に問う。


中島敦、いいですね。
格調高い漢文調の文章が、リズムに乗って読めます。
以前読んだときは、なんだか馴れずに途中で挫折したのに、今回はすらすら読めました。不思議!

文章もかっこいいですけど、登場人物もかっこいいですね。どうしてこうも魅きつけられるんでしょう。
山月記」の李徴、「李陵」の李陵と司馬遷や蘇武、「弟子」の孔子子路などなど。
男としての魅力がすごい。

とくに、僕は子路が好き。愚直で無骨な真っ直ぐさ。
以前読んだとき、なぜか「弟子」で泣いた覚えがある。子路の死に方と、それを聞いた孔子が家中の塩漬けを捨てる描写に、なんだか胸が詰まった。

山月記」も「李陵」も「名人伝」も言わずもがな名作ですね。

悟浄出世」も面白いですね。
悟浄がいろんな宗教観、思想に触れて、どこまでも川底を歩いて行くのが面白い。

「愛するとは、より高貴な理解のしかた。行うとは、より明確な思索のしかたであると知れ。何事も意識の毒汁の中には浸さずにはいられぬ憐れな悟浄よ。我々の運命を決定する大きな変化は、みんな我々の意識を伴わずに行われるのだぞ。考えてもみよ。お前が生まれたとき、お前はそれを意識しておったか?」

「渓流が流れて来て断崖の近くまで来ると、一度渦巻をまき、さてそれから瀑布となって落下する。悟浄よ。お前は今その渦巻の一歩手前で、ためらっているのだな。一歩渦巻にまき込まれてしまえば、那落までは一息。その途中に思索や反省や低徊のひまはない。臆病な悟浄よ。お前は渦巻きつつ落ちて行く者どもを恐れと憐れみとをもって眺めながら、自分も思い切って飛込もうか、どうしようかと躊躇しているのだな。遅かれ早かれ自分は谷底に落ちねばならぬとは十分に承知しているくせに。それでもまだお前は、傍観者の地位に恋々として離れられないのか。物凄い生の渦巻の中で喘いでいる連中が、案外、はたで見るほど不幸ではない(少なくとも懐疑的な傍観者より何倍もしあわせだ)ということを、愚かな悟浄よ、お前は知らないのか。」

中島敦の全集をいつか読んでみたい。

李陵・山月記・弟子・名人伝 (角川文庫)

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