冷たい密室と博士たち/森博嗣

森博嗣さんの『冷たい密室と博士たち』読みました。
あらすじ

同僚の喜多助教授の誘いで、N大学工学部の低温度実験室を尋ねた犀川助教授と、西之園萌絵の師弟の前でまたも、不可思議な殺人事件が起こった。衆人環視の実験室の中で、男女2名の院生が死体となって発見されたのだ。完全密室のなかに、殺人者はどうやって侵入し、また、どうやって脱出したのか? しかも、殺された2人も密室の中には入る事ができなかったはずなのに? 研究者たちの純粋論理が導きでした真実は何を意味するのか。


今回も面白かったです!


前回の「すべてがFになる」に比べると、だいぶ事件の衝撃度が弱い感じではありますが、王道的な本格ミステリィで面白かったです。なんとなく「すべてがFになる」よりも読みやすかった。

森さんの小説の面白さは、理系的に事件を構築、分解、解析して、再構築するその過程が面白いような気がします。京極夏彦の作品の中禅寺秋彦が事件を妖怪や怪異に見立てて解決するのを、犀川は数学的に解決する感じでしょうか。違うような気もする。
まあ、京極夏彦は人間関係とかが複雑で構造的になってて、森博嗣は事件の現場が複雑で構造的になってて、逆に人間関係は二の次になってますけど。


今回は犀川と萌絵の関係にちょっとキュンってなったりしました。あいかわらず、犀川先生はかわいい。犀川先生にとってきっと今回の事件より国枝女史の結婚報告の方が驚くべき不可解な事件だったと思います。

国枝桃子が結婚するというのは、殺人事件と同じくらいセンセーショナルである。

(中略)

どう考えても不思議だった。
国枝桃子が結婚する?いったい、誰と?
何のために?
国枝が、誰かと一緒に生活するなんて、とても信じられない。
何が目的なんだろう?

なかなかひどいこと言ってらっしゃる。それほど衝撃的だったんですね。


ほかにも、なかなかいい言葉があって面白かったです。

小説の表紙にも書かれてい言葉。

「面白ければ良いんだ。面白ければ、無駄遣いではない。子供の砂遊びと同じだよ。面白くなかったら、誰が研究なんてするもんか」


他にも。

「責任と責任感の違いが分かるかい?」しばらくして、犀川が言う。
「字数が違うわ」萌絵は咄嗟に冗談を言った。
犀川は笑わない。
「押し付けられたものか、そうでないかの違いだ」

「でも、学問というのは本来虚しいものですよ」
そう、本来、外部から傷付けられるようなものではないのだ。
(中略)
「学問の虚しさを知ることが、学問の第一歩です。テストで満点をとったとき、初めてわかる虚しさです。それが学問の始まりなんですよ」

犀川先生なら、どう答えられますか?」国枝桃子が無表情で尋ねた。「学生が、数学は何の役に立つのか、ときいてきたら」
「何故、役に立たなくちゃあいけないのかって、きき返す」犀川はすぐに答えた。「だいたい、役に立たないものの方が楽しいじゃないか。音楽だって、芸術だって、何の役にも立たない。最も役に立たないということが、数学が一番人間的で純粋な学問である証拠です。人間だけが役に立たないことを考えるんですからね」
(中略)
「そもそも、僕たちは何かの役に立っていますか?」犀川はおどけて言った

犀川先生ステキ!


あと、ノベルス番解説(太田忠司)の方から。

森博嗣の担当編集者はこのシリーズを「ミステリ版(工学部版)動物のお医者さん」と称していた。言い得て妙、ではないか。

なるほど。言い得て妙すぎて笑いました。

冷たい密室と博士たち (講談社文庫)

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