奇想と微笑 太宰治傑作選/編者・森見登美彦

あらすじ

中学校の国語の時間。「走れメロス」の音読テープに耳をふさいだ森見少年は、その後、くっついたり離れたりを繰り返しながらも、太宰の世界に惹かれていった―。読者を楽しませることをなによりも大切に考えた太宰治の作品群から、「ヘンテコであること」「愉快であること」に主眼を置いて選んだ十九篇。「生誕百年」に贈る、最高にステキで面白い、太宰治の「傑作」選。

僕にとって太宰治という人の作品は、なんだかとてもナルシストで憂鬱としている感じの小説と思っていた。
ひとまず、中学時代に読んだ『斜陽』はよく分からなかったし、その後『人間失格』に挑戦するも、冒頭部分で読むのを止めてしまった。その後も何度かトライしようと思ったが、読むなら暗い本より楽しい本がいいかなと思い避けてきた。
とても気になるが、手に取るのが億劫になる人なのだ。

しかし!しかし、この傑作選に集められた小説の愉快で面白いことはどうしたことか。太宰の皮肉れっぷりと、その情景や人物を描き出す文章の巧さ、人間臭さ、ユーモアさ、どれをとっても素晴らしいじゃないか!

以下、収録作品。

・失敗園
・カチカチ山(お伽草子より)
・貨幣
・令嬢アユ
・服装に就いて
・酒の追憶
佐渡
・ロマネスク
・満願
・畜犬談
・親友交歓
・黄村先生言行録
・『井伏鱒二選集』後記
・猿面冠者
・女の決闘
・貧の意地(新釈諸国囃より)
・破産(新釈諸国囃より)
・粋人(新釈諸国囃より)
走れメロス
・編者後記 森見登美彦

まずカチカチ山の面白さが衝撃的でした。こんなに変なものを描ける人なんですね。兎が美少女で、狸がその兎に恋している醜男なんて設定で新しくカチカチ山を面白く書いていく。
どの話も奇想と微笑に囲まれたものばかりであった。井伏鱒二のことや、畜犬談、親友交歓、猿面冠者あたりも非常に面白かった。

あと、全部読んでからの森見登美彦氏の編者後記が面白かった。実に上手く作品の面白さと太宰への思いが伝わってくるものだったように思う。
編者後記から

この本は、太宰治にも奇想天外で愉快な作品があるよ、ということを、とくに若い読者に知らせる本である。太宰は、うじうじしている文章も書いたが、うじうじしていることを笑いとばす文章も書いた。

まさに森見氏の狙いどおりである。僕の太宰像は、読む前と読んだ後でだいぶ変わったように思われる。
森見氏が『走れメロス』を最後にもって来たわけを書いているが、僕も『走れメロス』の見かたが少し変わったように思う。

今後、また太宰作品をいろいろ読んでみたいと思うようになった。
そう思わせてくれた太宰治森見登美彦に感謝!

奇想と微笑―太宰治傑作選 (光文社文庫)

奇想と微笑―太宰治傑作選 (光文社文庫)