世界は分けてもわからない/福岡伸一

『世界は分けてもわからない』著福岡伸一講談社現代新書)、読みました。


私たちは何でも分けて考えがちなのかもしれない。分けて考えた方が理解がしやすい、効率がいいのかもしれない。それに私たちは意識しなくても物事を分けて見てしまうものかもしれない。人は自分の見たいと思うものしか見ることができないのだから。


本書は生物学者福岡伸一さんがいろいろな物事に触れ、「世界は分けてもわからない」ことを書いています。
前半は本当にさまざまなこと、トリプトファンのことや、ランドルト環のこと、ランゲルハンス島、ガン細胞とES細胞、ある絵画のこと……。いろんな話があって面白いです。黒から白へのグラデーションになぜか縦縞を作ってしまう目、防腐剤に使われるソルビン酸の話など興味深く面白かったです。

そして後半はとあるガン細胞実験のことについて語られます。ガン細胞はなぜ無尽蔵に増殖してしまうのか。それを解明しようとした実験についてです。

最後の実験の話。ラッカーとスペランカー。すごく面白いです。科学者の、私たちの「治らない病」。ある意味ミステリー的な展開で、途中のとても詳細な実験手順も前半のさまざまな話もちゃんと最後にまとまるようになっていてすごい。新書だと思っていたらミステリー要素のある新書でした。

私たちは見ようと思うものしか見ることができない。そして見たと思っていることも、ある意味ですべてが空目なのである。
 世界は分けないことにはわからない。しかし分けてもほんとうにわかったことにはならない。パワーズ・オブ・テンの彼方で、ミクロな解像度を保つことは意味がない。パワーズ・オブ・テンの此岸で、マクロな鳥瞰を行うことも不可能である。つまり、私たちは世界の全体を一挙に見ることはできない。しかし大切なのはそのことに自省的であるということである。なぜなら、おそらくあてどなき解像と鳥瞰のその繰り返しが、世界に対するということだから。
 滑らかに見えるものは、実は毛羽立っている。毛羽立って見えるものは、実は限りなく滑らかなのだ。
 そのリアルのありようを知るために。私たちは勉強しなければならない。


福岡さんの本はやはり面白いですね。
文章も読みやすくて好きですし、いろいろな教養の深さ、その視点の面白さ。また、ほかの書籍も読んでみようと思います。

世界は分けてもわからない (講談社現代新書)

世界は分けてもわからない (講談社現代新書)