覘き小平次/京極夏彦

『覘き小平次』著京極夏彦、読みました。

微昏がりの押入れの中、身を屈め踵を撫で乍ら、一寸五分の隙間から世間を覗く。縦長の世間はいつも夢幻のようで、それでもあちら側こそ真実なのではあろうから、矢張り我こそが夢幻なのであろうかやと、小平次はそう思うているのである。

いつも押入れの中からそっと外を覗く小幡小平次。彼は、元名門一座の役者であるが、普通の芝居はまったくできなかった。しかし、幽霊役だけは、ぞっとするほど上手く、評判であった。普段も幽霊のように、生きているのか死んでいるのか分からないような、薄気味の悪い男であり、女房のお塚から罵詈雑言を浴びせられる日々であった。
そんなある日、小平次に幽霊役として旅巡業の声がかかる。



小平次と女房のお塚の関係がいいですね。
二人の目に見えない関係が愛しくて、寂しくて。
いろんな人の業や過去が絡み合って、もつれ合って、壊れていく。
玉川歌仙が一番翻弄されてかわいそうな気もする。

あと、なんといってもお塚さんのサバサバした感じというか、肝が太いところというか、闊達なところがいいですね。それでいて、とても艶めかしい。京極先生の描かれるこういう女性はいいですね。ツンとデレの割合が8:2、いや9.5:0.5くらいの割合な気がしますが、でも萌えますね。

そして、最後のエピローグ。
ゾクゾクしますね。


最後に治平の言葉から。

「哀しい時ゃ哀しい、死にてェ時ゃ死にてェと、そう語らなくッちゃ、自分のこたぁ語れねェんだよ」

「信じるってこたァ、騙されても善いと思うこと。信じ合うッてこたァな、騙し合う、騙され合うてェ意味なんだ。この世の中は全部嘘だぜ。嘘から真実なんか出て来やしねえ。真実ってなァ、全部騙された奴が見る幻だ。だから――」
 それでいいじゃねェかと治平は言った。
「本当の自分だとか真実の己だとか、そんなものに拘泥する奴は何より莫迦だ。そんなものァねえ。自分が欲しかったら手前で手前を騙すんだ。騙すのが下手なら下手で――」
 それでいいじゃねェかと、もう一度治平は言った。


覘き小平次 (角川文庫)

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